大学で尊敬できる先生
に出会う

石井 敏 教授
ISHII Satoshi

人を真ん中に置きながら建築を考える

未来につながるヒントは、今の社会や環境、歴史や文化の中にあります。今、そこにいる人がどんな表情・様子で、どんな気持ちでその場や状況を経験しているのか。建築は、今そこにいる人の状況や場面、今ある社会や人の暮らしをつぶさに観察し、理解することから始まります。人を中心にして考える学問が建築計画学です。私は、高齢期における居住環境や建物のあり方を研究しています。高齢期は人生で最も充実した時間ですが、同時に身体的にも困難や課題を抱える時期です。その時、どのような思いで日々過ごせるか、どのような環境や状況下で暮らせるか。建築側から考えるべきことは多くあります。高齢期を過ごすということ、病や障害を抱えながら暮らすということ、人が生きるということ。研究を通して色々なことを教わり、学んできました。そして、建築が人の暮らしを支え、豊かにすることができる多くの可能性を持つことも学びました。真に豊かな社会とは何か。お金があることでも、物があふれていることでもありません。人が老いた時、弱い立場になった時、どれだけ温かく包み込み、支えることができるか、その環境や状況を整えているか、ということだと私は考えます。建物や街は人の暮らしを支える場であり、人を幸せにするための場です。人を真ん中に置きながら考える建築という学問だからこそできることが多くあります。

石井先生は、研究室では実際にどんな研究をされているのですか。その魅力は何ですか。

「建築計画の中で施設計画を担当しています。特に高齢者の施設や居住環境に関する研究をしており、実際の高齢者の生活や環境との関わりなどを調査しながら、高齢者施設のあり方、人にとっての暮らしの場のあり方、高齢社会の建築のあり方などを探っています。もう少し具体的に言いますと、たとえば、現在の日本における老人ホームの環境というものは貧しく悲しいくらいの現実があります。日本は経済的にも豊かで先進国…と思われていますが、実は安心して老いることが出来ないような社会や居住環境があります。その状況を、研究を通して少しでもより良くしていきたいと思っています。豊かな社会の実現のために建築が果たすべき役割とそのあり方を研究しています。老人ホームという場を考えた時には、建築だけでなく、もちろん介護などの要素も重要ですし、老人ホームを支える国の仕組みとか国の考え方なども大切です。決して建築だけで解決できるものではなく、社会全体を考える中で建築という分野において何ができるのかを考えることが求められます。広い視野・視点から研究活動を行うことを心がけていますし、それが出来るのが計画研究のおもしろいところですね。いろいろな分野を結びつける橋渡しのような役割と言えるかな」

僕が建築を学びたいと志したのは高校三年の受験期だったのですが、先生が建築について興味を持たれたのはいつ頃ですか。

「工大に入ってくる学生は高校のときから建築を学びたいと決めて入学してくる学生が多いですね。それは素晴らしいことだな…と思います。僕は、普通高校出身でしたので、建築のことなんて何も知らなくて、とりあえず…ということで工学部に入学しました。学科は2年生に上がる時に決めれば良かったので。進路選択を先延ばしにしたということです。1年生の後半あたりで、進みたい学科を決めることになるのですけど、機械などいかにも工学的な学問よりももう少し軟らかいものがいいな、と思って可能性を消去していったら最後に残ったのが建築学科でした。もちろん昔から図工や、ポスターをデザインしたりすることは好きでしたけど」

先生が学生時代、この建築計画を学ぶきっかけとなったものはなんですか。

「建築の学問にはいろいろな分野がありますが、その中で計画が好きでした。研究を通して見えないことを明らかにしていく、それを設計に活かすようなことができたらおもしろいな、と感じるようになりました。尊敬できる先生に出会えたことも大きかったですね。友人でも先生でも人との出会いは一生を左右することもありますよ。」

建築に携わっていくなかでこれは面白いと思うことはなにかありますか。

「建築というのは、直接人に関わっていくものですし、人の生活にはなくてはならないものです。しかも、その良し悪しで、暮らす人の生活、さらには人生までも左右してしまう。研究をしているとそういう場面にいっぱい遭遇します。それは「面白い」、とも言えるし「怖い」とも言えますね。そういう意味では、建築という分野はとても魅力的であると同時に責任が大きい仕事だなと思いますね。また、建築に興味があると、どこに行っても楽しめます。日本のどこの町へ行ったって建物はある。外国へ行ったってそうです。極端な話、世の中のこと全てが建築に関わってくるんです。だからいろんなことに興味を持てるし、面白いなと思います」

現在は、教える立場にいらっしゃいますが、そのきっかけとなったことはありますか。また、学生との活動で楽しさを感じるときはありますか。

「常に進路を先延ばしにした結果、今の仕事に就いている…と言えるかな。設計の仕事への興味もありましたが、もう少し研究できるならそっちの道で…としていたら先生になっていました。研究の楽しさを大学院で感じたのも大きかったです。あとは、いつも人生の岐路で刺激を受ける人に出会ってきたことも大きいです。自分の適性を考えた時、デザインや設計ではないな…と悟ったことも今の仕事につながっているかな。設計がうまい人は周りにいっぱいいたし、自分はもっと違う分野で力を発揮したいという気持ちになったんですね。単にかっこよくデザインされているだけで、何にも使う人のことを考えていない建築にも出会う機会も多々あったりして、建築ってそれでいいの?…と思ったりもして、単に建築をつくるという行為への興味が薄れたこともあったかもしれません。工大の学生は指示したことはしっかりやってくれます。吸収する力もあります。4年間を通して、少しずつ成長していくのがよく分かります。もう少し自発的に考えて動く力を身につけて欲しいとは思いますけどね。研究活動を通して学生と接していると、本当にその成長が分かるし、その学生が卒業して社会人になっていく姿を見ているのはとても楽しいですね」

設計と現場のつなぎ役という仕事が、計画という分野になると、おっしゃられましたが、実際に学生がこの研究をして活かせる仕事はありますか。

「学生が研究したことを直接的に活かせる職業はあまりないことも現実。でも、むしろ、計画研究で身につけた知識や技術は、どんな仕事にでも活かせるとも言えます。リアルな社会を体感し、そこに潜む課題を見つめて、それを客観的に表現していくことが計画研究です。社会に出てから必要となることが、その中にはいっぱい詰まっていますね」

最後に、先生は建築以外に熱意を注ぐもの、気分転換にするようなことはなにかお持ちですか。

「これ…といった趣味はないですね。でも、建築を見て歩いたり、いろんな街を歩いたり、人の暮らしを感じたり、そんなことが好きですね。だから旅行はいいですね。国内・国外問わず、旅行から得られる刺激はとても大きいですね。いろいろな景色を眺めながらのドライブも好きです。かつて北欧・フィンランドに2年半留学していたこともあり、北欧デザイン、北欧ライフなどにはとっても興味もあるし、憧れもあります。皆さんにもチャンスがあれば留学を進めたいですね。あとは…友人と飲みに行ったりするのも好きですね。研究室でもたまに飲み会をしますよ」

先生には一年生の設計などの授業でも教わったことがあったのですが、僕が感じる先生の魅力はいい建築に触れるために、国内外問わず実際に多く足を運ばれていることだと思います。その経験からのお話しはとても刺激的で説得力があります。もちろん外国に行かなくても情報はインターネットや図書、雑誌などから得ることは可能です。でもその土地の空気、人と建築とのつながりはその国、土地に入ってみないとわからないはずです。建築で一番大切なのは自分の目で確かめ、身体で感じること、ということを先生のお話からは強く感じました。また先生の研究されている建築計画という分野は建築の中でも特に、人と建築のつながりを解明していこうとするもので、とても温かみのある魅力的な分野だということを改めて感じました。


インタビュー:斉藤 駿