何よりも、危険なものは
つくらない

最知 正芳 教授
SAICHI Masayoshi

確率・統計理論をベースに品質管理

建築物を実際に造り上げる際に必要となってくる様々な技術について研究しています。具体的には、建築物を造る時に使われるコンクリートなどの「材料」と、建築物の造り方や管理の仕方について扱う「施工」が専門です。良い建築物を造り上げるためには、良い材料を使って、良い施工を行なうことが必要なので、材料や施工について、品質をきちんと管理することが求められます。そのためには、品質に常に付きまとっている「ばらつき」について、それを把握したり制御したりする技術が必要です。確率・統計理論をベースとした品質管理についての研究は、大切なテーマの一つとなっています。また、建築物が出来上がった後には、当初の性能を長い期間にわたって維持してゆくための技術が必要とされます。例えば、建築物を長期にわたって使っているうちに生じてくる不具合には、建築物を造っていた時の材料と施工の問題が複雑に絡んでいる場合があるし、「人」の問題が関係してくることもあります。そのため、材料劣化や施工不良、さらにはコンプライアンス(法令遵守)やモラルハザード(倫理崩壊)なども研究対象となります。現在はそれらの事柄が複雑に関わって社会問題化している「不良ブロック塀の問題」に焦点を当て、「材料」、「施工」、「人」の関わる建築生産領域のテーマの一つとして研究を進めています。

最知先生の研究内容とはどのようなものなのでしょうか。

「建築材料と建築生産が専門ということになりますが、特にコンクリートに関連のあるものが研究テーマとなっています。今はブロック塀の防災対策を中心テーマに据えて研究を進めています。宮城県では近い将来に大地震の発生が予想されていますし、最近は各地で毎年のように大規模な地震が発生しているので、ブロック塀の危険性も注目されています。実際、ブロック塀の危険性には侮れないものがあり、おびただしい数のブロック塀の存在は一つの社会問題として捉えるべきだと思っています。
大地震発生時には調査のため、直後に被災地に入ることがあります。被害を調べて、教訓を拾い出し、今後の地震対策に活かすのが目的です。ブロック塀は、道路側に倒れることが多いので、地震後の復興上、倒れた塀は迅速に片付けなければいけません。交通の確保のためには当然のことですが、反面、ぐずぐずしていると貴重な現場が失われ、データが取れなくなります。研究者としては、地震後なるべく早めに現地に入る必要があるわけです。
被災地に入ると、せい惨な現場と被災者の姿が嫌でも目に飛び込んできます。被災者は家を失い、あるいは余震を避けるため、外に出ていることが多いのですが、あまりの被害に意気消沈ということを通り越しているのでしょう、むしろ表向き明るい人が多いのです。被災者の方から『ご苦労様です。』と声をかけてきたり、食べものを持ってきてくれたりします。そんなときには帰る家があることのありがたさを感じます。
地震で倒れたブロック塀をよくよく調べてみれば、ほとんどに施工不良が見つかります。そんな時は気持ちが落ち込んでしまいます。結局は人間の問題に行き着いてしまうのだろうかと。こうなると技術や工学の問題から離れてしまいます。無力感を抱いてしまいますね。でも、とにかく被災地の現場の空気を出来るだけ吸収して、データに現れてこないような雰囲気なども全部持って帰ってきて、それを次の災害のときに活かせるようにしたい。そう考えて研究を進めています。
ブロック塀をテーマとしていることには、何人もの子供達が倒れたブロック塀の下敷きとなって亡くなった1978年宮城県沖地震の記憶も大きく係わっています。その時は大学を出て間もなくだったのですが、調査に出たときの印象は強烈なものでした。都市の中にあるブロック塀の危険性が案外知られていないので、『もう2度とブロック塀による犠牲者が出ないようにしたい。』そんな思いが研究の力となっています。」

先生が材料のとりわけコンクリートという分野に興味を持ち始めた経緯を教えていただけますか。

「僕はもともと設計よりも、汗水流して身体張って、現場で仕事をしたいという気持ちを強く持っていました。本当は土木志望で、トンネルマンになりたかった。特に国家規模のビッグプロジェクトに携わりたいと思っていたのです。しかし、周囲の猛反対に負けて建築の道に入ってしまいました。それでも、やはり土木関係の仕事への憧れは萎えることがなく、建築の学問領域の中でも土木と繋がりがあるコンクリートを扱っているこの分野を選んだのです。
強い現場志向の気持ちは、中学生の頃にテレビで観た『黒部の太陽』という連続ドラマで生まれました。ビッグプロジェクトに取り組むトンネルマン達の姿に強く惹かれ、テレビにかじりつくようにして観ていました。『これが人生をかける仕事だ!』ってね。結局は石油危機という社会情勢のために採用がなく、夢破れて今の道に入ってしまいましたが、今でも当時の気持ちは心の中で息づいています。」

この研究室で学んだことは、社会に出てどのように役に立ち、どのような職種に就けますか。

「研究室によって就職先が決まってしまうということはありません。僕のところを出ても、建設会社はもちろん、住宅関係や設計事務所に就職する学生もいます。コンクリートを研究のテーマとしていたならば、建築の現場はもちろん、設計の仕事の中でも必ず役に立つはずです。それと、生産関係のゼミで得た品質管理に関わる知識や技術は、建設業や製造業の実務に直結する部分も含んでいます。ただ、材料や生産っていうのは、建築の中ではすごく泥臭くって、地味な分野かもしれません。計画や設計っていうのは面白くて、華やかな分野という印象があるでしょうし、構造分野などは技術的な領域の中では注目度が高いかもしれません。
材料や生産の分野は、そのどちらでもなくて、中間的な分野という言い方もできますから、非常に地味な分野に見えることはあると思います。でも、きっかけはどうあれ、熱心に研究してみれば、得るものは大きいと思いますよ。」

現在だと新しいコンクリートなども改良されていますが、ブロック塀も変わってきているのですか。

「改良というよりも、ブロックを高く積むこと自体がまずいと言えます。家を囲う塀は頑丈なものにしたい、ということでブロック塀が普及し、安易に造られてきたのでしょうが、実際には鉄筋コンクリート構造学の内容そのものの難しさがあります。でも、ブロック塀は技術を身に付けていない人達にも簡単に造れるように見えるし、実際そんな人たちが造ってしまう現状があるわけです。今はそんな事情やブロック塀の危険性を一般の人たちに理解してもらおうという段階に過ぎません。本当は危険性のあるブロック塀は撤去してしまうことが一番です。でも個人の所有物だから、そう簡単にはいかない。最終的には個人の意識の問題となってしまい、今はそれが壁となって、なかなか先に進まない、というところでしょうか。とにかく、危険性を内在するようなブロック塀は初めから造らない、危険性が見えるブロック塀は撤去する。これが究極の解決策です。」

先生は研究に疲れたときの息抜きは何か行っているんですか。

「もちろん。ずっと研究に没頭し続けると、どうしても能率が落ちます。そんなときには息抜きも必要でしょう。研究室で疲れを感じたら、些細なことですが、机の前に貼ってある愛犬の写真を見て癒されたりしています。家で飼っているのは、『らんまる』という名前のポメラニアン。パソコンの壁紙にもしていますよ。」

先生が推薦する雑誌などは何かありますか。

「雑誌ならば、『Newton』がお勧めかな。とても読みやすい科学雑誌です。建築をやっているから、建築関係、ということではなく、むしろ専門以外に目が向けられるようにすることも必要と思います。単行本なら歴史小説ですね。例えば『徳川家康(全二十六巻)』とか、長編小説がお勧めですね。こんな長編は学生の頃じゃないとなかなか読めないと思います。歴史小説は、仕事や人生の機微に触れられる、とよく言われますが、その通りだと思います。

休日はどんなことをされるんですか。

「休みの日には250㏄のオフロードバイクに乗って林道ツーリングに出かけたりしています。自然の中に身を置くのが好きですね。若い頃は山に夢中でした。ハードな登山はもうやめましたが、山へは今も時々出かけています。」

今日は、沢山のお話をお聞きすることが出来て、とても楽しかったです。先生の知られざる一面も見ることが出来ました。本当にありがとうございました。


インタビュー:高橋 由佳