自分のテーマでは
先生よりも詳しく

渡邉 浩文 教授
WATANABE Hironori

冬暖かく夏涼しい快適な建物の創り方、省エネ

私が担当する建築環境工学は、人々が快適に安全にそして省エネで合理的な生活を可能とするための建築を考える基礎的な学問分野です。例えば暖かいですとか涼しいですとか、日常生活の中で何気なく感じていることを理論的に理解し、冷暖房器具を使わなくても冬暖かく夏涼しい建物の創り方、照明器具を使わなくても日中充分に明るい建物の創り方、そして汚れた空気が速やかに屋外へと排気されるような建物の創り方、これらをいかに省エネルギーで達成するかは、これからの建築に必要不可欠になってきています。また私は都市の環境についても専門としています。日本の人口の7割は都市に居住していますが、その都市化の過程でヒートアイランド現象という都市の暑熱化が進行しています。ここ仙台でも夏の最高気温が35℃を超えることが珍しくなくなってしまいました。世界で問題となっている地球温暖化の6倍の高温化が、全国の都市で進んでいるのです。これからの建築や都市は、厳しくも豊かな自然と現代の科学技術との調和に基づくものでなければなりません。これこそ私が生涯賭けて取り組む研究テーマです。

渡邊先生の授業では、どんなことを学べますか。

「私は、環境工学という分野を担当しているんですが、これについての授業は、2年生から始まります。主な内容は、建築の屋内であれば暖かい・寒い、明るい・暗い、空気の質などがあります。これをどうコントロールするかを考えるというものです。言い換えれば、人間にとって適度な環境条件を作り出す方法、を考える授業ともいえるでしょう」

研究室で行っている主な研究・活動を教えてください。

「屋内の環境ではなく、主に屋外の都市環境を専門に研究しています。特に都市の大気環境ということで、今となっては聞きなれた、ヒートアイランド現象を実際に調べて測る研究が一つの大きなテーマとなっています。
具体的に仙台市内の温度分布というのは、ほとんど測られていません、仙台管区気象台で測られているだけなんです。例えば、街中である仙台駅前とダイエーとの温度比較などはもちろん分かっていません。同じ仙台であっても場所によって気象状態が異なります。生活実感としては確かに違うというのは分かっていますが、どのように違うのか分からないので、それを研究しようと思いました」

その研究・活動で分かったことは何ですか。

「百葉箱は仙台市内の小学校に大抵ありますよね、しかし、東二番町小学校で計測を試みたときそこには、百葉箱が有りませんでした。現在では小学校に百葉箱を設置する義務はないようです。そこで研究費を文部省から得て、『百葉箱を自由に使っていいので置かせて下さい』と、仙台市内のいくつかの小学校に設置をお願いしました。元々百葉箱が設置されている小学校と合わせて40校ほどのデータを集めることに成功しました。
その測定機械を置かせてもらって十分間隔でかれこれ十年くらいずっと測っています。そうしてみて分かったことは、予想以上に仙台の中心と郊外との温度差が大きく、具体的には最大で約8度の違いがみられました。例えると、仙台の涼しい場所と盛岡の昼間が同じくらいの気温で、仙台の暑い場所は、東京の大手町の気象台よりも温度が高いことになります。
日本は南北に長い国土持っている為、北の方の寒い地方と、南の方の暖かい所とでは生活スタイルから、住宅・建築様式まで異なるということをこれから学んでいくと思います。その気候差と同じくらいの差が仙台市内でも場合によっては発生することがこの研究で分かりました」

他にも研究テーマはあるのですか。

「2つ目のテーマは、省エネです。
社会全体としても電気を使用する量を減らす取り組みとして省エネが、スローガンに置かれています。企業では、商品の価格低減にも結び付くため、エネルギー削減が昔から行われていました。しかし、家庭などの一般建築では未だに消費量が伸び続けています。では、なぜ一般住宅などで消費量は右肩上がりなのか、その原因を見つけるべく研究しています。
3つ目のテーマは、都市の安全です。
最近では建物自体の耐震が進んできたと言えますが、例え建物が壊れなかったとしても、水道管などの設備が壊れてしまうということがあります。建物が機能しなくなってしまうことによって、その 建物なり地域が打撃を受けてしまうのです。その問題が顕著に表れた所が病院や役所、災害時の拠点となるような場所です。このような建物の機能としての水道管や電線などの耐震は、都市建築の分野でもあります。これを考えていくこともテーマになっています。
4つめのテーマは、騒音です。
バスやトラックなどの大型車による騒音は、騒音規制によって抑えられてはいますが、どうしても車は止まったり走ったりする時にエンジンの音が発生しますよね。交通整理に使われる信号機などはもちろん位置が固定されているので、近くにある建物はその騒音に必ず影響されます。しかし、意外にも一般の住宅地や市街地での対策は手つかずになっているのが現状です。
車の動き・速さと騒音との関係を測り解析し、それら周辺環境を見直す研究を行っています」

研究の分野が多岐にわたっていますが、先生が都市環境を研究するに至ったきっかけは何ですか。

「私は元々、建築に興味を持っていて、建築学科に進学しました。ひとつひとつ、良い建物を造ることは大事なことではありますが、街並みとしての統一感を守るためには、都市規模で建築を見直さなければならないと感じました。『都市全体を見て全体として良い環境をつくれないだろうか』と考えたのがこの道に進むきっかけとなりました。また、そのようなことを研究している恩師に出会えたことが、とても重要であったと思っています」

先生の研究室では、学生にはどんな力を身につけて欲しいとお考えですか。

「主に自分のテーマに対する責任感と考える力ですかね。講義というのは、学生にとって基本的には、受け身的なものかもしれません。しかし卒業論文となると教科書に載っているような内容をただ纏め直して並べることはナンセンスです。誰も注意して見たことがないようなことを取り上げて、それを自分なりに考える。そして卒業論文というのはその人の著作物ですから、責任を持つということが極めて大切なことです。『先生に言われたからやる』というのは、私の研究室ではご法度で、目標を持って調べたからには、私よりもそのテーマに詳しくならなければなりません。そして、環境を一つの軸に取ったとき、自分のテーマによって得た結論がどう建築に生かされるべきか、それを考えることも学生に身につけて欲しいことだと思います」

初めて環境工学という分野に触れ、改めて都市規模で建築環境を考えさせられた気がする。今回のインタビューで、「街並みとしての統一感を守るためには、都市規模で建築を見直さなければならない。」という言葉が私の心に響いた。今まで私は「一つ一つ素晴らしい建物を造り、環境へ配慮すれば良い」と考えてきたが、やや都市環境へ思考のベクトル向かっているということに気付かされた。
本当にいま求められる建築とは、まさに先生のような一人一人の環境への信念なのかもしれない。私は先生の考えと共に、これから環境と建築言わばこの相反する存在をどう上手く結び付けていくかを考えていきたい。


インタビュー:千葉 満輝