環境シミュレーション
の見える化

許 雷 准教授
XU Lei

環境シミュレーションの見える化

許研究室は建築環境設備分野に所属し、低炭素社会に向けて建築業界におけるエネルギー消費量の削減、また建物の長寿命化に向けて安全、安心性の向上を目指しています。建築業界の情報化に応じて環境設計ツールの開発、災害時安全・安心対策の提案などを中心として取り上げ、研究を行っています。具体的には、3次元CADの活用により建築意匠・設備設計が一体となった環境設計手法を提案しています。建物情報モデリング(Building Information Model)の国際標準仕様に基づいて、意匠設計と環境評価を連携することにより、建物の空調負荷、省エネルギー評価指標の自動計算ツールを開発し、環境評価の結果を意匠設計にフィードバックします。建築設計効率の向上、より良い建物の実現を目標としています。また、火災の発生・煙の拡大と避難状況を同時にシミュレーションして利用者の避難誘導、防災訓練などへの活用、「災害の見える化」を図ります。建物に長い時間携わる利用者、所有者の立場から安全・安心性の向上に貢献できればと考えています。

許先生は何年に来日されたのですか、そして、日本語は昔からお上手でしたか。

「2000年に来日し、早稲田大学で博士後期課程に進学しました。
日本語を学んだきっかけは、中国での大学時代、第2外国語として日本語を選考したからです。その後、さらに修士課程で日本語を勉強しました。来日するつもりで日本語を選択したわけではなく、日本語は漢字も多く、中国語に近い言語と思ったからです」

先生は環境設備分野を研究されていますが、これは中国にいたときからですか、この分野の魅力はなんですか。

「中国ではエネルギー学科、中国では建築設備は機械系のエネルギー学科だった為、元々建築の専攻ではありませんでした。空調設備、エネルギーやボイラーといった分野が元々の専攻です。
来日する前は、中国で、空調、空調負荷計算をする際に意匠設計の図面をいじったり、空調ダクトを図面に書き加えていましたが、日本に来て省エネルギーや建築技術、設備・環境設備を整える為にどのような提案ができるかを考えるようになりました。
設備の設計、外皮システムの提案、建築という分野において、なぜ南面に部屋を配するのかなど、建物の方位、光、風の計算、これをどう生かすかも環境設計のひとつです」

今後追求したい分野はなんですか。

「最近は環境分野におけるBIM(建築情報モデリング)技術の活用に取り込み、デジタル環境設計ツールを開発しています。
このツールを利用すれば、3Dベースで図面を作成し、そして建材情報などを含めむ、属性のある図形をデータを直接第三者へわたすことができます。意匠設計の情報を直ちに空調設計に活用することもできるようになる斬新的な開発です。
先日、このツールを使ったBuild Live Tokyo2009コンペに参加しました。学生チームは我が校だけで、意匠設計を行う同時に、空調負荷、環境負荷などを提案しました。設計者の図面を自動的に読み取り、空調計算ができるようになればいいと思ったからこの研究を始めました」

2月に学生の引率でヨーロッパ研修旅行に行かれましたが、いかがでしたか。

「ヨーロッパは初めてでしたので大変楽しかったです、今まではアジアばかりを回っていましたので。
世界的に文明が進んでいながらも、古い建物が沢山ありとても刺激的でした。研修旅行の最後に行ったパリで1851年ロンドン万博の会場となった水晶宮の模型を見ました。鉄とガラスを大量に使用した最初の建物ですが、近代建築のはじまりとも言えます。
スペインのバルセロナではアントニオ・ガウディの作品を見て来てきましたが、意匠設計はもちろんですが設備がしっかりしており、排気、自然の風の取り込み、採光の工夫に驚きました。改めて採光の大事さを目の当たりにし、建築での重要性を感じると同時にガウディの環境的、設備的な考えにとても感心しました。
また、ヨーロッパの町並みが奇麗なのは、電線などの設備が地中に隠されているからですが、日本の都市は景観の配慮を見習うべきことがありますね」

中国の建築に関して教えて頂きたいのですが・・・。

「昨年の講義でみなさんにも紹介しましたが、中国の西北地区に点在する地中を掘り下げた、ヤオトン建築は昔から受け継がれて来た中国建築です。
厳しい冬や夏の厳しい日差しといった自然条件を地中という環境を活かした設備性の高い建築方法です。夏は西日が強くとも、地中にあるヤオトン建築は土中温度が低いので涼しさを保つことができます。冬の寒さは地中が熱を保ち、外気に直接触れませんので暖かく過ごすことができます。
また、都市に多く見られる四方院も代表的な建築です。中庭を取り囲むようにできた建物は近代建築のバルコニーや自然の取り入れ方に通じるものもあり、ガウディのカサミラにも通じるものがあると思いました。近年の中国ではオリンピック開催などもあり、町並みが整備され近代建築物も増えました」

これまでで達成感のあった事柄は何ですか。

「日本への留学生の中で、一番卒業がはやかったことです。私は来日後すぐに博士後期課程に入ったので、3年で学位をとることができました。博論をまとめはじめて、三ヶ月でまとめることができたのも嬉しかったです。
毎日、五ページ論文を書く、と決めて取り組んだのですがこれは大きな成果となりました。出来たときの達成感はこれまでにないものでした」

今の学生に求める事は、何ですか。

「工大に来て思うことは時間を学業よりもアルバイトに割く学生が多いですが、これがあまり良くないと私は思います。学生時代には将来の事を考えてもっと学業への時間を増やしてほしいです。そして大学院に進むことを望む学生がもっと多く出てほしいです。大学院に進む事は、就職を遅れさせるのではなく、視野を広げることだと考えてください。
大学の四年間で、自らが望む専門的なことを学べるのは研究室に在籍する一年だけです。もっと勉強することは建築という広大な分野において沢山あります。大学院に進んでから卒業したほうが専門性も高くなり、将来の展望も開けてきます。大学院に進んでからのサポートは、奨学金など、大学もしっかりしてくれるので、もっと多くの学生が大学院に進んでほしいと思います」

先生の大学時代に心に残る思い出は何ですか。

「同済大学修士課程の時代、自分はあまり目立たない学生だと思っていたのですが、ある日、指導先生に課題を渡されました。それは上海の高層建物の設備状況を調べろという課題で、大学の周辺、現在工事している現場などが対象でした。
私は最初、先生が既にそれらの場所に連絡を入れてくれているものだと思っていたのですが、実際行ってみたらそんなことは全くなく、現場で直接交渉するしかありませんでした。
『これは大変な課題だ』とそこで気づきました。はじめは2、3件しか調査することができず報告しづらかったですね。しかし先生は『いいじゃないか』と褒めてくたし、これはがんばるしかないと思い調査を続けました。自転車で100以上の建物、工事現場を調べて回りました。
先生の考えがあっての課題でしたが、励ましの言葉をもらったからことで最後までがんばれました。この先生の精神を、今の大学に生かせたらなあと思います。実は、この課題は自分の前に任された生徒がいたのですが2、3日ですぐ止めてしまったとのことです。実際、何も連絡もせずの交渉でしたが、現場に行けば意外とみなやさしく接してくれ、立ち入り禁止のところも中に入れてみせてくれました。学生の実直さが伝わったからこそ、できた課題だと思っています」


インタビュー:高橋 沙織